
先日子供のピアノ発表会に行って来ました。
と言うより私のピアノ発表会に子供と一緒に出演しました。。
と言いますのも以前にもお伝えしましたが、実は私嫁が生前に一緒に通っていたピアノ教室に現在も通い続けております。
そして今年コロナ禍も落ち着いてきたので今回久しぶりの開催となり、先生からお声を掛けて頂きました。
子供は小学校の頃から近所の違う教室に通っているのですが、縁あって今回私の先生主宰の発表会に親子共々出させてもらう運びとなりました。関連過去記事
しかしながら私はうちの子供と違って人前で何かを表現するという事が大の苦手でして、先生にも「出ないとまずいですよねぇ」と消極的な姿勢で聞いてみたものの「もう3年も通っているんだから」みたいな顔をされたので、出ることにしました。。
前回初舞台を踏んだときには選曲の無謀さもありますが、途中で頭の中が真っ白になり演奏停止状態になってしまいました。ですがそのトラウマもその後コロナ禍で発表会が立て続けに中止になりある種救われました(先生すみません 汗)
その間、ハノン等で基礎練習をしつつ3曲ほどピアノ曲を稽古しました。甚だ身の程知らずではありますがすべてショパンの作品に挑戦させて頂きました。

ちょっと無茶してへんかぁ?
と言いますのもショパンは嫁さんも大好きだったので、良く聞かせてもらいました。当時は僕もまだちゃんとはピアノを習っていなかったので嫁さんをただただ尊敬しておりました。
そしてこのピアノ教室の大人のクラスは基本選曲は本人の自由なので、本人のやる気次第では名曲に挑戦する事も可能です。但し自己責任ですけど。
嫁さんが弾いていたこともありますが私自身も子供の頃からこころに響いた曲はショパンが多かったです。
あとショパンの生涯を描いた映画もたまたま見る機会がありましたが、おこがましいことを言わせてもらうとちょっと自分に似ているかなと(笑)繊細だけど大胆だったり、人当たりは良いけど頑固だったり。
そういった2面性もショパン音楽の魅力を際立たせているように思われます。
しかし演奏技術面では言うまでもありませんが難易度最高レベル級と言っても過言ではありません。曲のスタイルにもよりますが。エチュードなんかは全音のピアノピース(1曲づつ売っているやつ)ではほとんどF(最難関)でした(汗)
そのエチュードに取り組んでいるんですが、ピアノ歴3年やそこらで挑戦できる代物ではありません。ですがショパン音楽を生涯追いかけると決心したのでやっています。
ちなみに「エチュード」とはご存知の通り本来練習曲という意味ですが、ショパンエチュードに関してはその概念を超越していると思われます(私的に)
曲自体は短めのものが多いですが、1曲1曲が完成された芸術作品となっており実際上世界中の一流ピアニストがリサイタル等で演奏されています。
そしてかのショパンコンクールでもエチュードから3曲が課題曲となっております。
いま思うと練習曲がそのまま自分のレパートリーになると甚だ能天気に考えていた自分がこっぱずかしいです。。
しかし自分の決意は揺るぎませんので、やるしかありません。何としても発表会までには仕上げなくてはなりません。
うちの子供は相変わらず怖いもの知らずなのであまり練習しておりません。ですが本人に聞きましたが一応仕上がったそうです。
私、我が子と言えども人の心配している余裕は有りませんので本人に任せようと思いました。発表会前に1度だけ私の先生にレッスンして頂いたのですが結構褒められたそうです。
さて私、譜読み(譜面を解読して運指等を確認すること)は大分前に完了して暗譜(譜面を見ずに弾けること)も出来ているのですが、思う様に滑らかに早いパッセージが弾きこなせません。
こんなことなら参加断れば良かったなぁ(汗)
と半ば投げやりな気持ちにもなりそうでしたが、子供の手前口が裂けても言えません。
私は男性の手にしては小さいです。かろうじて1オクターブは届きますが。
ですがショパン自身も手が小さかったと聞きます。ポーランドにショパンの手形等が現存しているらしい。
ショパンエチュードにはどう考えても普通に考えたら指が届かないフレーズが沢山出てきます。
ですがそれは敢えて困難なストレッチを与えることによって、無理に手を広げるのでは無く手首を回転して振り子の様に動かし、腕全体で軸を移動させることにつながりました。
先生からもその様なアドバイスを頂きました。ピアニストのユーチューブ動画にもそう言われてる方がおりました。
試行錯誤を繰り返して直前の1週間は仕事を終えて家に帰ってからは練習ばかりしてました。
そしてとうとう発表会の日がやって参りました!

穏やかな小春日和の日曜日、普段は物静かな田舎町もコロナ禍も落ち着き今シーズンは観光客で賑わいを見せています。
「発表会ではなく観光で来てたらもっと穏やかでいられたのに。。」
観光客とは裏腹に悲壮感漂う自分がいます。

会場は先生が川沿いの小さなカフェを貸し切って下さいました。
この川も以前お伝えした、生前嫁と毎日ドライブに通っていた思い出の川でした。「これも何かの縁かなぁ」と思わずにはいられません。関連過去記事
カフェの扉からショパンの有名曲が聞こえてきました。先生が講師演奏曲を練習されてました。滅茶上手でした。当たり前ですが。
先生の演奏を見れるのも大きな楽しみなのですが、まずはやることをやらねばなりませぬ。
カフェの扉を開けると先生とお店のご主人が笑顔で出迎えてくれました。
うちの子供もさすがに慣れない場所でましてや知っている子も居りませんので珍しく顔に緊張感が出ていました。
うちの子は基本的に能天気ですが年齢的に人見知りをするときがありますので、ちょっと心配になりました。「大丈夫かなぁ」今さらですが気になりました。
徐々に生徒さん、ご家族さんらが集まってきていつの間やら満席状況となりました。
先生のお知り合いの年配の方などもいらして、若いひとが席を譲ったりご主人がカフェテリアから椅子を追加したりと賑わいが増してきました。
幼児さんたちも沢山参加されてて、改めて先生の顔の広さに驚嘆しました。
うちの子も「こんなに生徒さんいるんだ」と驚いていると同時に緊張感が伝わってきました。
コロナ禍開け間もないこともあって、午前は子供の部、午後は大人の部と分かれての開催です。ちなみにうちの子供は最年長なので午前の部トリとなりました。
「なんで最後なの?」恨めしそうに私を見ました。思わず目をそらしました(汗)
さて幼児さんたちの発表が始まりました。聞くところによると今回の参加が始めての子供さんも多いらしく、さぞ緊張したであろう想像も難くありませんが(大人でもガチガチなのに)みな自己紹介もよろしく堂々たる演奏ぶりでした。
私この年歳になってつくづく思うのですが子供の頃からこの様な発表の場に参加して場馴れし、そして成功体験を味わうことが如何に人生に於いて大切なのか身を持って感じます。
人は誰しも長い人生に於いて沢山の発表の場や勝負どころが訪れると思われますが、子供の頃から経験を積んでいれば失敗したとしてもそれも経験になりますし、傷も浅くて済みます。
何事も経験がものをいいます。何よりも何かに挑戦したりそれを誰かに発表することの喜びを経験することは今後の人生を前向きに捉えるきっかけになると思えます。
なのでうちの子供には小さい頃から本人が望めば何でも体験させました。
その代わりある程度続ける約束は必要ですが。。
さて子供さんたちの勇敢な演奏もあっという間に進み子供の順番が迫って参りました。
前の子の演奏は流石にレベル高めだったので、ちょっとプレッシャーにならないと良いけど。と心の中で呟きました。
さっと挨拶して演奏開始。ぶっきらぼうなのは緊張しているのだろう。。
曲は日本人の作曲家ですがちょっとお洒落なクラッシックみたいな感じで私も好きです。
大変グレードの高いグランドピアノと思われます。
やはり緊張してたみたいで所々躓くところはあったみたいですが、素敵な音楽を奏でていました。
皆さんじっくりと聴いて下さってありがたいと思いました。
先生もねぎらいのコメントを添えて下さいました。「皆さんも素晴らしい指使いや表現力を参考にして下さい。」と。
演奏が終わり会釈して足早に席に戻ったうちの子供は今一つ自分の演奏に満足していない様子でした。
ですがそれも経験と思うので我が子もきっともっと成長してくれるであろうと思われました。
午前の部が終わって二人でコンビニにお昼を買いに外にでました。
暫し沈黙のあと「いい音出してたよ。ちょっと緊張した?」と話しかけました。
子供は黙って頷き「腹減った、早くおにぎり食べたい」とだけ言って早歩きになりました。

「能天気なうちの子さえ緊張するんだ。俺は終わったな。。」
私もう諦めの境地に達しました。
「しかし子どもでさえ勇気を持って弾き切ったんだ。俺も頑張らねば!」自分に喝を入れました。
カフェでお昼をとりながらリハーサルの順番を待っていると大人の部の参加者が少しづつ集まってきました。
前回参加された見覚えのある方も居られました。
流石に大人の部はベテランのピアノ経験者が多くリハーサルでも難曲を流暢に弾かれている方が多かったでした。
「子供の部で出してくれたら良かったのに(汗)」つくづく往生際の悪い私でした。
兎に角ここのピアノに慣れなくては!
子供の部では時間の都合上リハーサルが無かったので私はそれだけでも恵まれています。
こどもに「お父さん、川沿い散歩しようよ。」と誘われましたが
「勘弁してくれ、後でな、俺今追い詰められてるんだ!」

Oh My God !!!
私大人げもなく少し声を荒げてピアノの前に向かいました。
ピアノの前に座るとそこは観客席とはまるで違った景色に見えました。
私改めて子供たちの堂々とした演奏っぷりを思い出しその度胸に脱帽したのでした。
兎に角限られた時間を最大限活用しなくては!
取りあえずいつものフレーズを引き始めました。
ピアノ経験者の方はお分かりでしょうがピアノは1台1台全くと言っていいほど違います。木で出来ていますし細かいところは職人さんが手作業でやられているので。
ですので発表会やらコンクールでは当然現地のピアノに自分を如何に仕上げていくかが問われます。
ショパンコンクールでさえもピアニストが会場の数台あるピアノから自分にあった奴をリハーサルで選んでいるシーンをテレビで見たことがあります。
バイオリンとかと違い自宅から持ってこれませんので(汗)
さて音を出してみましたが、正直その芳醇な音色に驚きを隠せませんでした。
「ショパンコンクールの音がする!」私心の中で叫びました。
グランドピアノなのでタッチは柔らかく尚且つ音の響きはブライトな輝きを醸し出している。
「これならいけるかも」根拠のない自信が湧いてきました。

そしてすぐに出番がやって参りました!
大人の部は演奏前に軽くスピーチをしなくてはなりません。それはこの教室での伝統でした。
私正直に妻が最近亡くなったこと、妻と一緒に先生のピアノ教室に通っていたことを皆の前で話しました。
妻の存在を皆に知って欲しかったし、生涯ピアノが大好きだった妻の分までこれからの人生弾き続けていきたいことを伝えたかったので。
会場からは少なからずどよめきが聞こえましたが、皆さんの顔を見ると何だか泣きそうになっても自分が困るので直ぐにピアノの前に座りました。
出だしから強く早く弾き始めました。
集中力が途切れると雑念が沸いてくる恐れがあったので兎に角無我夢中で弾き続けてました。
途中弾くところがずれて止まりそうになりましたが兎に角続けました。
曲の終盤にさしかかったらまるでマラソンのラストスパートの様な気持ちで
「あと少しだ、手が痛いけど自分の力を出し切るぞ!」と言い聞かせてました。
そして拍手、何とか弾き切りました。正直細かいところは憶えておりません。
多分相当弾く音間違えていると思われますが、何はともあれ最後まで弾き切りました。
前回の発表会の時には途中で止まってしまったので自分にとっては大きく前進です!
私緊張感からの突然の解放感から暫く放心状態になっていてその後の事はあまり記憶がありません。
しかし最後の先生の渾身のショパンバラード演奏は嫁さんとの思い出の曲でも有りますし、感動して泣いてしまったことは憶えております。
皆との記念撮影のあと、前回の発表会で嫁さんが私と一緒に来てたことを覚えていてくれた方からお声を掛けて頂きました。
先生にご挨拶してしみじみとした心持で会場を後にしました。
川沿いの素敵なカフェでしたのでいつかまた立ち寄りたいと思いました。

そしてふと見上げると、毎日妻とドライブしていた思い出のこの川は、遠く山裾の彼方まで続いているのでした。
「ありがとう。これからもずっと共に弾き続けていこう。」
そうひとり呟くのでした。

あんなに憂鬱だった発表会も喉元過ぎればなんとやらでいまではいい思い出になりました。
そして「次回も勿論参加して、もっと満足な演奏を披露したいな」
と貪欲な自分に自分が一番驚いているのでした(笑)
fin
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